これを「物件」と一括りにしてしまって
いいのだろうか、と少々ためらいつつも
ご紹介させていただきます、こちら。

昔は別荘地として、
今は古い洋館や豪邸が散在する
京都市山科区の御陵（みささぎ）地区。
琵琶湖疎水のすぐそばに
荘厳な空気をまとって佇む
石造りの邸宅。

栗原邸(旧鶴巻邸)と呼ばれる建物です。
今までに何度か一般公開もされてきました。
ちょっと遠目から見ても
格式高い雰囲気が漂っております。

これはこれは立派な門構え。
うっそうとした木々の向こうに、
ちらりと見える建物。
染色家であり、
京都高等工芸学校（現：京都工芸繊維大学）の校長であった
鶴巻鶴一氏の邸宅として
建てられたものです。
同校の教授でもあり、
モダニズム建築の先駆者である
建築家の本野精吾氏による設計だそう。
彼らの人となりを知らなくとも
なるほど、どうりで…と思いますし
美的センス溢れる建物に違いない…！
と、期待に胸が高鳴ります。

中村鎮式コンクリートブロック造と
呼ばれるこの造りは耐震強度が高く
段々に並ぶ鉄格子の窓や
上にスックと伸びる柱が印象的、
かつ、とてもクール。

門をくぐり木々の中を進むと現れる
半円を描く玄関ポーチ部。
神殿か宮殿を思わす石の円柱。
その上に並ぶ窓の美しさ…
後ろの木々の緑と相まって、漂う
凛とした空気に背筋が伸びる思いであります。

なんと、こちら、
2007年には、モダニズム建築の保存に関する
国際組織「DOCOMOMO japan」により
日本を代表するモダニズム建築に認定。
2014年には
国の登録有形文化財に登録されているのです。

間取りもまた、部屋数、広さ共に桁違い。
間取り図だけで、
色んな人間模様が浮かんできて
小説が一本書けそうだし

ここを舞台にいくつもドラマが撮れそう、
と思ったら実際、
ドラマや演劇の舞台に使われたこともあるそうですよ。

各部屋には暖炉もあり、
インテリアや家具はそのまま残っています。

鶴巻氏本人による、
ろうけつ染めの襖絵の応接間もあり

随所に装飾美を感じます。
この辺りは機能性、合理性を謳うモダニズムとはまた別の美意識のように思えます。

玄関ポーチ上の弧を描く窓の内側は
このようなサンルームになっていました。
中から見てもやはり美しい…！
焦げ茶色で統一された調度品は
長い年月を経て品よく艶めく。
京都の町を眺めながら
お紅茶を嗜んだりしていたのでしょうか…。

お台所だけで13畳もありますからね、
それはそれは作業もしやすいことでしょう。
収納の数も半端ないなぁ、
白い棚に窓辺も可愛いなぁ…と
気になるポイントも沢山です。
やはりお手伝いさんがいたのかしら、
毎晩夕飯には何品並べられたのかしら…
そんなことも気になってしまう庶民です。

お風呂場は予想を裏切るポップさ。
珍しいタイル使いに遊び心を感じますね。
窓も大きくて、洗い場も浴槽もゆったり。

静けさ満ちる建物内から階段を登り
一歩出ると途端にパァッと視界が開ける
屋上もまた素晴らしく、

山科地区を見渡すこの眺望。

敷地の半分以上は雑木林となっている上、
この辺りは特別修景地区に指定されてます。
裏手の疏水沿いは春は桜が咲き乱れ
秋は紅葉に囲まれて。
緑豊かな中の
四季折々の表情もまた素晴らしく、
まさに山紫水明。
そこにひっそり佇むモダニズム建築。

そして、お値段。
ええ、まぁそうですよね。
文化財ですから。
そう考えると
お安いのでは？とすら
思ってしまいます…
売り物件に出ていることに
軽く衝撃を受けたのですが…
どなたか資産家の方は
いらっしゃいませんか…？
この文化的価値を認め
お金と志がある方にぜひとも、
受け継ぎ、建物を守っていただけたら、
大変、嬉しゅうございます…。