
和室と猫と、予想外の毎日と。
こちらは過去の物件です。アーカイブとしてお楽しみ下さい。
誰にも相談せずに、 誰にもお別れを言わずに、 静かにこの家に越してきた。
都会で過ごす日々の、
なにもかもが
わずらわしくて。
もうすべて捨ててしまおうと、
キャリーケースひとつで
たどり着いた新しい場所。

そう思った、けれど。

待て待て待て。 自分の家の玄関が こんなに賑やかなはずがない。 ちょっと待ってくれ。
こちらの焦りは伝わらず、 「困ったことがあったら言ってな」 「これぬか漬けあげるわ」 「畑で取れた野菜もあげるわ」 とあれよこれよと物が積まれた。
「いや、いらな…」の
かすかな言葉は、
嵐の中に消えた。
落ち着いた生活はどこに。

だってもう、
一人暮らしですら
なくなってしまったから。

ピンと立った耳に、 しゅるりと揺れる長いしっぽ。 ビー玉みたいな目が、 こちらを見ていた。
「…なんだよ」
「にゃあ」
「ついてくんなよ」
「にゃあ」
「……飼えないからな!」
「にゃー」

「にゃあ」
こちらの葛藤なんて
なんのその、
まるで自分の家のように
玄関からするんと
そいつは入り込んだ。


「にーちゃん!セミ!」と
手に乗せて見せられたときは、
本当に腰が抜けた。
なんで掴めるんだよ、
怖いものなしかよ。
突っ込みどころが満載すぎるよ。

料理の難しさに
ふてくされながら
強引に渡されたぬか漬けを
ポリンと食べたら、
あまりのうまさに
またびっくりした。



そして今は、 静けさなんて カケラもない やかましい日々だ。 なにが起きたんだろう。 不思議なこともあるもんだ。
「なー、ねこ」 「にゃあ」
キョトンとした顔で 鳴くその顔を、 なんとなく写真におさめた。 ずっと連絡できなかった 人たちに、写真と一緒に 「こいつの名前なにがいい?」って 連絡してみるのも、 悪くないかもしれないな。
文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana
いま募集中の物件一覧
お部屋探しに!今空いている物件だけを絞り込んで探せます
詳しくはこちら


