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いつか思い出になるこの家の日々。

二十代半ばにしてやっとこ、そろそろ
実家を出ようかな、出たいな、と
思い始めて物件探しをし始めた矢先、
バイト先のギャラリーカフェで
一緒に働くT君に
その話をしたら
「ちょうど相方と古い一軒家借りて
何人かで住もうかって話をしててさ、
今四人集まってんだけど、一部屋どう?」
なんて言って、その建物の外観写真を
見せてくれた。

「えっ、住みたい!めっちゃいい!」
古民家好きの私には茶色い板張りの家は
どんぴしゃりすぎて興奮した。

そこからトントン拍子に話は進み、
翌月には実家の車で積めるだけの
荷物を積んで引っ越してきた。
大人しい父は興味深そうに
家のあちこちを写真に収め
「じゃ、体に気をつけて」
とだけ言い帰って行った。

部屋割りは全く揉めることなく決まった。

私の部屋は一番日当たりがいい、
二面彩光の二階の四畳半。
私以外、日当たりはそんなに気にしない
という人たちだったので、即決だった。
やっと自分の部屋が持てたことが嬉しくて
お気に入りの雑誌や文庫本、
CDやレコードたちを
あーでもないこーでもない、と
浮かれながらディスプレイした。
一人でアパート借りるより
だいぶ安く済んだのも有り難い。
仕事はギャラリーカフェのバイトの他に
障害者施設で絵画を教えたりもしてる。

隣の三畳間は私より十歳位上のS君。
本人に聞いてないので正確な年齢は不明。

仲間と立ち上げた
ウェブデザイン事務所で働いてる。
朝が遅くて帰宅も遅い。
口数少ないけど、
興味ある話だと饒舌になったりする。
インスタントのブラックコーヒーに
多めに牛乳入れると美味しい、と
教えてくれたのは彼。

真ん中の三畳間は
ここを紹介してくれたT君。
ユニットでアーティストやりつつ
デザイン仕事をしていて
私と同じ
ギャラリーカフェでもバイトしてる。
朝が弱くてシフトが遅い日は
一体いつまで寝てるのか、よくわからない。

二階で一番広い六畳間は、Yさん。
背が高くて荷物が多い、という理由で。

英会話教室の講師をしてて、
日本アニメ好きなフランス人の彼氏がいる。
時々連れてくるのだけど
彼女がガハガハと大きな声で笑ったり
喋ったりするのとは対照的で
彼は人見知りでボソボソ喋る。
こんなフランス人もいるんだ!と
新鮮だったし
二人が付き合いだしたのも本当に不思議。

下の二畳間はT君の相方のK君。
ほぼ布団で埋まってて
布団の上で生活してると言っても過言ではない。
昭和レトロなパッケージのタバコの箱や
自分たちでデザインしたグッズが
あちこちに散乱している。
 
みんな生活時間がてんでバラバラだから
料理当番や掃除当番も特にない。
作りたい人が作りたいものを作り
そこに食べたい人がいれば一緒に食べる。

掃除も気になった人がするし、
気にならない人は永遠にしない。
私は気楽で気に入ってるけど
きっちりしたい人にはあまりおすすめしない
そんなヘンテコシェアハウス。
毎月末に皆から家賃を徴収して
振り込むのは私の担当。

「ただいまー」て帰ってきた時
この共用スペースでもある
六畳の障子から灯りが漏れてると
ちょっとほっとする。

夜にはここに
ばらばらと何人か集まって、
バラエティやお笑い番組を見て笑ったり、
テレビゲームが始まることもある。
わざわざリサイクルショップで誰かが
買ってきた古いファミコン。
ゲーム機を持ったことない私は
いつまで経っても上達せず
すぐゲームオーバーになるので
ちっとも楽しくない。
いつもちゃぶ台として使ってるテーブルは
冬には炬燵布団がかけられて炬燵になって
何人かで鍋を囲んだりもする。
友人の誰かが泊まりたいと言えば
リビングは宿にもなる。

お風呂場は脱衣場がないから、
どこかの部屋の押入れの襖を
キッチンに立てて
ついたて代わりにしている。
仮のはずが結局それで
ずっと何とかなってる。

この辺りは学生も多いせいで
安くて美味しい店が多い。
時々タイミングがあえば
何人かで一緒に
外へ食べに行ったりもする。
バイト仲間も加わり
食べたり飲んだりした後
そのまま公園に行ったり。
他愛もないおしゃべりをしながら
芝生をゴロゴロ転がって
ゲラゲラ笑いあったり。
ある夏の夜、海まで行けるだろうかと
神田川沿いをひたすら歩いて
明け方付近まで過ごしたこともある。
(海には着かなかったし
疲れて途中からどうでもよくなった)

ふと、
いつまでもこんなふわふわ楽しい日々を
続けてていいのかな、って
不安なような気持ちと
いつかは終わるんだな、って
寂しいような気持ちに襲われる。

今年の夏は本当に暑かった。
遠くの方から祭囃子の笛や太鼓の
音が聞こえてきて
ガラリと窓を開けたら
ほんの少し秋のにおいがする風が
入ってきてスイッと頬を撫でた。

「ねぇ、どっかでお祭りやってるー!」
と階段の上から呼びかけた。
誰かの「おーう」という声、
それから、パタパタ、ガラガラと
音がして、私も玄関へ向かう。
もうすぐ、この家で
三度目の秋を迎える。

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