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高円寺ラブストーリー

この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。

ふたりでぎゅうぎゅうに 肩を寄せ合い暮らしていた 高円寺の小さなアパートから、 ぐっと広い新居に 引っ越してきた僕ら。

じりじり暑い夏の日に、 自分たちで荷物を運んで。 ふたりとも汗だくで、 どうして涼しくなってからに しなかったんだと ドロドロの顔で笑いあった。

高円寺のディープな雰囲気に、 芯まで惚れ込んでいる僕ら。 もちろん新居も高円寺。

団地をリノベしたこの家は、 どこか懐かしい雰囲気がある。 新しすぎず、古すぎず。 絶妙なバランスが高円寺と しっくりきていて好きだ。

ファッションにこだわりのある ふたりが一緒に暮らしているせいで、 服や靴やバッグは溢れるほど。 そんじょそこらのクローゼットじゃ おさまりきらないと 頭を悩ませていたときに、 君がこの家を見つけてくれた。
「ダイニングのこの収納、 すごくない?広くない?」

「うちらどっちも 服持ちすぎ、靴持ちすぎ。 でも絶対捨てたくないでしょ」

「だからほら、 これくらいどーんと 広い収納スペースがあったら、 それだけで新生活サイコー!って なりそうじゃん。どう?」

興奮して話す君の とまらない早口。 はじけるような笑顔と 激しい身振り手振り。

もちろん家も気に入ったけれど、 君の熱意にノックアウトされたと 言ってもいいのかもしれない。 絶対に言えないけれど、 浮かれる君がかわいかった。

「もしこれでも 収納が足りなかったらさ、」

「こっちの3.2帖の部屋を ウォークインクローゼットに すれば完璧なんじゃない?」

そうひらめいた君は天才だ。 いまではお出かけ前には この部屋に集合して、 ふたりで洋服を見せ合いながら あーでもないこーでもない。

「柄と柄の組み合わせかっわい」 「ねぇこの靴下チラ見せどう?」 「この前買ったシャツ貸して~」 「バッグ新しいやつだいいね」

そんなにバッチリきめて どこ行くのって、 近所のスーパーなんですけどね。

お互い仕事の休みは バラバラだから、 手が空いているほうが 掃除をしたり、料理をしたり。

すべすべのフローリングは やっぱり裸足で歩きたいよねと ふたりの意見が一致したので、 フローリングワイパーだけは 小まめに活用されている。

おしゃれな部屋に合うからと せっかく買ったスリッパは、 もはやインテリアになった。

ふたりとも料理は 得意じゃないから、 スマホでレシピを見ながら 慣れない手つきでよたよたと。

スタイリッシュなキッチンで サッサッサ~とおしゃれな 料理を作りたいものだけど、 それにはしばらく修業が必要。 ふたりの未来に期待しよう。

どうにも料理する気に なれない日でも、 心強い味方がいるから大丈夫。

1階に下りれば、 プロの腕をふるってくれる 頼もしい飲食店がふたつも! 珈琲とクラフトビールが すぐ近くにあるなんて、 贅沢な暮らしだよなぁ。 ついついお店に行きたくなって、 なにかしら理由をつけて 君を誘ってしまう。
たらふくビールを飲んで 眠くなってきたら、 部屋に戻って寝室へ。 5.3帖の洋室に置かれた ふかふかのダブルベッドに、 酔いつぶれてふたりでダイブ。

朝起きたらきっと君はまた、 「珈琲のみたい…」と ボサボサ頭で言うだろう。 「1階に買いに行く?」と 寝ぼけた君に聞きながら、 僕は爆発した目の前の髪を 軽く手でとかしてあげる。

君のヘアバームと 僕のワックスが並んでいると、 たまに気持ちがこそばゆくなる。 見慣れた光景のはずなのに。

小さなアパートで一緒に 暮らし始めたときと、 僕はなんにも変わってない。 いまだに君が近くにくると、 ちょっとソワソワしちゃうしさ。 きっと気づいてないだろうけど。

ゆったり入れる浴槽で、 ふたりで溶けかけのアイスを 食べるのがたまらなく好きだ。 シャンプーの香りに混じって、 おいしそうなフルーツや バニラの香りがふわふわと。
ひとつだけ、君にお願い。 トイレットペーパーを 使い終えたのに 切れたままにするのは、 ほんとうにやめてください。
共用の芝生庭からは、 子どもの遊ぶ声がよく聞こえる。 本当は一緒に遊んでみたいけど、 どう話しかけていいのか わからない僕らは かわいいねぇと眺めるだけ。

人見知りの僕らは、 お互い以外の誰かと話すのに とっても勇気が必要だ。 子どもであってもそう。 向こうからぜひとも 話しかけてくれないかなと、 淡い期待を抱いている。

ときには芝生の庭で、 マルシェをやることもあるそうだ。 ふたりでいるのは ものすごく居心地がいいけれど、 たまには新しい出会いに 挑戦するのもきっと楽しい。 「こんにちは」の いちばん最初の声かけは、 できれば君にお願いしたいけど。
高円寺で君と出会って、 高円寺で君と暮らして、 高円寺で君と新しい一歩を。

「もっと広い家を、 探してみようと思って。 君とちゃんと、あの、 けじめとして、新しく…」

しどろもどろになった かっこわるい僕の姿を、 君がケラケラと笑い飛ばして。 その明るさにいつも救われる。

これからもどうぞよろしく。 この先ずっと、末永く。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana

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