姉の新居
この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。
新婚のお姉ちゃんが引っ越した家。
山も海も見える、 築60年の平屋。
出不精な私とは正反対で 仕事終わりに車走らせ温泉に、 連休があれば南国に行くお姉ちゃん。
「今夜はここでBBQね」と 13畳あるらしいウッドデッキに出る。
ピンク色のハンモックと、 ココナッツの香りがする アロマキャンドルが並んでる。
天井が抜かれた 開放的な空間。
一面の窓から入る日差し。
この家はお姉ちゃんに似合ってる。
結婚相手もお姉ちゃんの男版みたいな人で 「今更だけどSex and the Cityにハマっちゃった」って言う。
「SATCの中だと誰と付き合いたい?」 「キャリーが一番イヤ」 って言いながら赤ワインを開けてる。
「ここでシソを育てる予定。 餃子と合うから。」 と庭を見せてくれた。 どうやら料理好きらしい。
初夏の湿気をまとった風が通る。
去年の今ごろ、 お姉ちゃんと二人で日帰り旅行した。 運転してもらって、 助手席でいっぱい喋った。
ウッドデッキのあるカフェでお茶して、 露天風呂でお互いの友達の話をした。
小さい頃はふたりで おばあちゃんの家に泊まった。
水回りのタイルにシールを貼りまくって おばあちゃんに呆れられた。
「夜になると誰もいないのに 足音がするんだよ」って 怖がりの私に 怪談話ばかりしてきたお姉ちゃん。
そんな日々を思い起こさせる レトロなこの家。
職人技が光る腰壁。
端材を貼り付けた壁。
トグルスイッチまである。 かっこいいなって摩ってると 「あんたこういうの好きだよね」 と言ってくる。
広い方の和室は夫婦の寝室。
「今日はここで寝てね」と 北側の4.5畳の和室に 案内された。
もうお姉ちゃんと二人で 遠出することは無いのかな。
おめでとうって 心から思ったけどな。
天井に独り言ちてると 「BBQするよ」って廊下から声が聞こえた。
文・戸田江美
1991年生まれ。デザイナー。おばあちゃんの仕事を継いで荒川区のマンションの大家をしている。落語が好き。@530e