時間があるとついつい 眺めてしまうのは、 海外インテリアをまとめた SNSアカウント。

とくにパリのアパルトマンを 紹介してくれるアカウントは 私のお気に入りで、 こんなところに住めたらすてきだなぁ、 どんな人が住むのかなぁって ずっとずっと思ってた。

そんなときにふと見つけた、 福岡県のワンルーム。

日本だって大好きだよ。 ごはんはおいしいし、 安い外食チェーンには いつも助けられてる。

でも、でも、 漠然とした憧れってあるでしょう。 「パリに住みたい」なんて、 今の私にはまだ言えないけれど。 心の中にくすぶっている 小さなロマンが、 ここなら育つんじゃないかって。 こっそり、そう思ったの。

内見でエントランスに 足を踏み入れた瞬間に、 「わたし、ここに住む…」と 小さく口からこぼれた。

まるでパリに来てしまったようで。 1回の旅行で心を掴まれた あのパリの美しい風景が、 頭の中でチカチカと廻った。

「パリに住みたい」って 堂々と言えないのは、 フランス語もまだまだ話せなくて、 怖がりで、人見知りで。

福岡にずっと住んでいて、 周りの人はやさしくて。 親しい人から離れて、 ひとりでがんばれる自信が 今の私にはまだないから。

でも、ぼんやりとした憧れは どんどん自分の中で強くなる。 忘れてしまえるかと思ったのに、 どうしても消えてくれない。

「ブラックにゴールドの金具、 パリのインテリアでよく見たなぁ」 「きっとこんな家に住む人は、 堂々と発言できるんだろうなぁ」

憧れを身にまとって、 きっとスローペースだけれど、 自分を変えていきたいんです。

そして始まる新生活。 来週からね、 私のお部屋はここになる。

パリに行っても大きなお部屋は 借りれないだろうから、 ここと似ているワンルームを 想定したほうがいいかなぁ。 どんな家具を厳選するか、 このお部屋でシミュレーション。

ベッドは必須だとして、 あとは小さなデスクと椅子。

植物でお部屋を賑やかにする インテリアコーディネート、 とってもすてきだったなぁ。 ちゃんと水やりできるかな。 植物なんて育てたことないけど、 それでも、チャレンジしてみようか。

備え付けのテレビボードの上に、 ガラス瓶でたくさん 植物を並べるのはどうだろう。 大きさも形もバラバラの瓶を、 ラフにポンポンと置いてみるの。

なんだかおしゃれな ラックまで付いてる。 フランス語の教材を 入れておこうかと思ったけど、 使いすぎてもうボロボロなんだった。 ピカピカの新しい教材を買って、 ビシッと並べてみようかな。

私、フランス語はまだ下手だけど。 いつかペラペラになって、 会話を自然に楽しみたいなって思う。

このお部屋にいるときは、 パリにいる気分になるのかな。 それとも、さらに 本当に行きたい気持ちが ふつふつと湧いてくるのかな。

どちらにしても、 周りには気づかれないくらい ゆっくりと、カチコチと、 自分の中の時計の針が 進み始めたのを感じてる。

これからは、 本当にほしいと思うものだけを このクローゼットに入れていこう。 衝動買いしそうになったときは、 たったこれだけ唱えればいい。

「それ、本当にパリに 持っていきたいほどですか？」

お料理は全然できないけれど、 どうにかなるかな、不安はある。 いきなり日本の味が 恋しくなっても大丈夫なように、 お味噌汁だけマスターしておこうか。

でも、心強い味方だった 日本の外食チェーンは パリにはほとんどないかもしれない。 2くちコンロの上でお味噌汁、 下でお肉を焼くくらいは、 がんばればできるかなぁ。 同時に調理をするなんて、 今は想像もつかないけれど。 右手と左手がパニックになりそう。

このお部屋で 特に好きなところは、 洗練されたサニタリー。

カクカクの珍しい洗面ボウルが、 なんだか海外風で かっこいいなと思ったの。 床もホテルみたいですてきでしょ。

浴槽はないけれど、 シャワーブースなんて 海外ドラマみたいでうれしい。

空間が狭いから、 お湯をジャバジャバ出せば 簡易サウナになりそうだけど、 水道代がもったいないかな。 一度くらいはやってみたい。

勉強が一番はかどるのは、 私は意外とトイレだったりする。 かわいくてテンションも上がる このこじんまりした空間で、 単語をブツブツ、ポソポソ。 集中力が切れるころには、 お尻が痛くなっていそう。

小さいころから、 「マイペースだねぇ」って 言われてきたけれど、 自分では周りに追いつくように 走っているつもりだったよ。 それでも、きっと みんなにはゆっくりに見えていた。

今でも変わっていないよね、 きっとゆっくりに見えているよね。 でも、安心してほしいの。

どうか心配しないで。 ひとつずつしかできないから、 早くは進めないけれど。 それでも、行きたい方向が やっと見えてきた気がするの。 少しずつだけど確実に、 前に進んでいる気がするから。

いつかセーヌ川のほとりを てくてくと歩きながら、 「こっちは変わらず元気だよ」って メールをしてみせるから。 あせらず、せかさず、 待っていてほしいです。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana