うだるような暑さが続いている。
そんな真夏でも、
気持ちよく過ごせる
早朝のひとときだけは好きだ。
私と彼は、いつもの喫茶店で
アイスコーヒーをテイクアウトして、
おきまりの散歩道を歩いていた。
　
ここを通るたびに見かける
3階建てのマンション。
私はここを、親しみを込めて
心のなかで"もじゃもじゃ邸"と
呼んでいる。
今日も雰囲気あるなあ。
こんなにツタに覆われていたら、
やっぱり中は涼しいのだろうか。

「確かめてみよう。
　ここ今、空室あるらしいよ」
と彼が言う。
なんだか、これから探検が
はじまる気がして
私もワクワクしてきた。

さっそく不動産屋さんで
内覧を申し込み、
1LDKの部屋を
案内してもらえることになった。

レトロな雰囲気の階段を
トントントンと、
軽快に上がっていくと

この物件、
「世界のタンゲ」と称され
国内外で活躍した
丹下健三氏の下で働いていた
建築家のオーナーさんが
設計を手がけたそう。

３８年前に建てられ、
今は娘さんたちが
管理を引き継がれたそうで、
大切に守られている。
内装からは相応の
年季を感じるけれど、
それ以上に、たくさんの愛も感じる。

リビングは南向きで、
窓からの日差しが明るくて気持ちいい。

フローリングにペタッと座って、
アイスキャンデーをかじりながら
日がな一日
スクリーンに映した映画を
ゆったり鑑賞したり。
いろいろと妄想が膨らんでくるぞ。

奥の洋室は
小さな階段を上がった廊下の先に。
ちょっとした段差が空間を
ゆるく仕切ってくれている。

頭上のまあるい照明が
ポツンと灯って可愛らしい。

６帖の洋室は
寝室にするといいかもな。
大きな窓は曇りガラスなので
人の目も気にならないし。

この部屋には
エアコンが設置できないらしく、
リビングのエアコンから
風を送る形になるそう。
寝る時はエアコンより
扇風機派の私たちには、
問題は無さそうだ。

キッチンは
新しく変えられたばかり。
シンクも収納棚も
みんなぴかぴか。

独立洗面台の横には
洗濯機置き場も
用意されている。
壁には大きめの収納棚が
設えられているのが
うれしいポイント。

浴室はシンプルに。
そして、清潔に。

ずっと思い焦がれていた
もじゃもじゃ邸への
探検を終え外に出てきた。

ギラギラと照りつける日差し。
もちろん、暑い。
だけど、
瑞々しい緑が
建物をそっと包み込んでいるからか、
もじゃもじゃ邸の中は、
暑さも少し和らいでいるように感じた。

私たちはふたりして、
もじゃもじゃ邸の持つ
不思議な魅力に
心を奪われてしまった。

そして、
もじゃもじゃと共に季節を越え、
経年を楽しむ生活を始めようと決めた。