新しい家に引っ越したという友人が
「休みの日に遊びに来いよ」と
誘ってくれたので
自転車に乗って行ってみた。

マンションのエントランスへ入ると、
クルクル渦巻きの
吹き抜けがある共用スペースが
目に飛び込んできた。
見上げると、
さわやかな青空が覗いている。

立ち止まって眺めていると、
汗ばんだ肌に心地よい
そよ風が通り抜けていった。
少し長引いた梅雨も
そろそろ終わる。
いよいよ夏が始まるぞ。

「ターンテーブルの上に
自転車を置くといいよ」
何のことだ？と
思っていたけど
彼がそう言っていたのは、
きっとここのことだな。

ぐねっとした階段が
上へ伸びていて、
各フロアにはガラス窓が
たくさんついている。
彼がここを選んだのもよく分かる。
昔から奇抜なデザインや、
洗練された空間を好んでいた。

エレベーターで最上階へ上がり、
クルクルうず巻きを
上から見下ろしてみた。
真下に見える
ターンテーブルには、
放射状に自転車が並んでいる。
僕の自転車も見える。

「お洒落なとこに住んでるなあ」と、
しばらく見惚れたあと
彼の部屋を訪れた。

独特な曲線を描いた
14.4帖のリビングダイニング。

そういえば
「想像以上に広いから
　楽しみにしててね」と、
得意げに言っていたっけ。

なるほど。
そういうことか、と僕は笑った。
ゆったりした14.4帖に加えて
一面の鏡ばりの壁。
そのおかげで
部屋の広さが
倍になったように見える。

彼はヨガのインストラクターだ。
自宅で自分のヨガの
フォームをチェックしたり、
生徒さんの個人レッスンを
開いたりできるような
大きな鏡のある物件を探していて、
この部屋に出会ったそうだ。

せっかくなので、僕も
ヨガを体験させてもらうことにした。
お香を焚いているのか
白檀の香りが
室内にほのかに漂っている。
だんだんと心が静まっていき
身体の芯からじんわりと
熱くなっていくのを感じた。

鏡の横にあるクローゼットは
収納力、抜群だろうな。
リビングダイニングには
あまりモノを置かずに
雑念を去り、
呼吸を整える空間にしたいそう。
なので、クローゼットには
生活の必需品や衣類が
綺麗に隙間なく収納されていた。
おかげで鏡のスタジオは
スッキリしている。

ヨガを教えてもらったあとは
彼がキッチンでお昼ごはんを
ご馳走してくれることになった。

料理も好きな彼は、
キッチンの使いやすさも
気に入っているようだ。
豊富な収納スペースに、
調理スペースも一人暮らしには
十分すぎるほどだ。

ヨガで良い汗をかいたので
彼が料理を作っている間、
お風呂を使わせてもらうことにした。
追い炊き機能があり、
ボタンひとつで
すぐに湯船を温めてくれた。
足もゆったり伸ばせるぞ。

そして大きな独立洗面台。
彼は、毎朝起きると鏡を見て
笑顔の練習をするらしい。
確かに表情が豊かで
いつもニコニコしているので
女の子からの人気も高い。
彼は自分のチャームポイントを
しっかりと心得ている。
なかなかしたたかな男だ。

壁に設えられたガラス棚には
トイレットペーパーが
丁寧に積み上げられていて、
彼の几帳面さが感じられた。

かたや、ズボラで
部屋の片付けなんか
まったく得意ではない僕。
彼から学ぶことは多い。

浴槽、洗面、トイレが
一緒になったバスルームだけど、
窮屈な感じはなくて
むしろ余白を上手に
使っていて居心地がいい。

昼食をご馳走になったあとも
いろいろと話に花が咲き、
気づけば夕暮れどきになっていた。
「また、いつでもおいでね」
と、優しい笑顔で送ってくれた友人。

僕は来週も彼に
ヨガを教えてもらう約束をした。
そして、男磨きの方法も
教えてもらいに。

少し長引いた蒸し暑い梅雨。
運動不足が続き、
身体が少し重くなっていたけれど、
今日は帰りの自転車を漕ぐ足が
久々に軽やかに感じられた。