生きてなかったけど懐かしいあの時代
この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。
生きてなかったけど 懐かしく思う景色がある。
例えば、 夜明けの国道に連なる 赤いテールランプ。 霧に煙る桟橋で爪弾くギター。
ロックンロールのヒットパレードが ラジオから流れる、がらんどうの部屋。
たまたま有線で流れた 『ジュリアに傷心』を聴いてから 恋い焦がれるようになった景色たち。
自分の店ではもちろん、 彼らの曲を流してる。
リボンで結んだ ポニーテールが似合うような ヴィンテージワンピースを揃えた店。
旧居留地と山手を結ぶ トアロード沿いにある、 どこか異国情緒を感じる物件。
奥まった場所だから ネットをメインに販売しているけど 実物を見たいと わざわざ来てくれるお客さんたち。
渋い取っ手の扉を開けて、
フィッティング。
思わず爪先立ちしてしまう 心浮かれる ハイウエストのフレアワンピース。
私同様、 彼らが歌う時代に生きてなかったけど 当時流行ったデザインを 「レトロでかわいい」と 思う子はたくさんいる。
店の奥は住居部分。
窓を開けると たゆたうカーテンが心地よく。
天気のいい日はテラスでおやつ。
元町まで自転車で行って買った お気に入りの洋菓子を コーラと一緒に食べる午後。
「買ったワンピースを着る週末を目標に 日々の仕事を頑張れます」 貰ったメールに、 私も日々頑張る元気をもらう。
ロンドンで見つけたジャズのステップを 軽快に踏めそうなワンピース可愛かったな。
買い付けいつ行こう。
インスタの更新もひと工夫したいな。
などなど、何をしていても 頭の中はお店のことばかり。
眠りにつくときは 小さく彼らの曲を流す。
伸びやかに 恋を歌う声を聴いていたら、 洋服が好きで仕方なかった 幼い頃の私の夢を見た。
文・戸田江美
1991年生まれ。デザイナー。おばあちゃんの仕事を継いで荒川区のマンションの大家をしている。落語が好き。@530e