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敬老の日にあげた花束

この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。

おばあちゃんの家は いつも来客がある。

仕事相手、友達、 近くに住む親戚たち。

来客慣れしてるおばあちゃんだけど、

私が彼氏を連れて来た日は 念入りに打ち水をしすぎて 庭がびしょびしょだった。

つくばいには 雀のつがいが水を飲みに来る。 カラスが邪魔しに来ると、 おばあちゃんが追い払う。

明治末期から 大正にかけて建てられたこの家。

「歳重ねてから この家の渋さが わかるようになったよ」って言ったら、 「私は70越えてから わかるようになったわよ」 と笑ってた。

「むかし母の日にもらった」らしい、 お気に入りのピンクの絨毯。

私が小さい頃は、 模様に沿って おもちゃの汽車を走らせ遊んだ。

夜のトイレは少し怖くて 「ドアの前で待ってて」って お願いした日もあった。

「いつの間にかトイレも  一人で行けるようになって  あっという間に結婚する歳だねえ」と しみじみしていた。

敬老の日にあげた花束が 少しずつ枯れていって、 残った一本をグラスに飾ってくれている。

今晩はハンバーグにしよう、と 決めたはいいけど おばあちゃんも私もレシピの記憶が遠くて、 何混ぜるんだっけ どのタイミングだっけって 会議しながら作った。

京都町家特有の火袋に、 ハンバーグの匂いが立ちのぼる。

洋風と和風の合いの子みたいな味になって、 結局、美味しく出来た。

寝室は二階。

よいしょ、よいしょ、 階段登るおしりを下から支えて。

厳しい花嫁修行を乗り越えた おばあちゃんの布団や枕カバーは、 いつも洗い立ての匂いがして 糊が効いている。

「孫たちが小さい頃は  よくここで川の字になったね」 と懐かしむ。

天井の木目を見ていると 懐かしいお泊まりの記憶が蘇ってくる。

ひとつひとつ思い出してるうちに 気がついたら眠りに落ちていた。

文・戸田江美

1991年生まれ。デザイナー。おばあちゃんの仕事を継いで荒川区のマンションの大家をしている。落語が好き。@530e

トダビューハイツ

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