何もない休日には、
大好きな漫画の世界に
思う存分没頭するんだ。

思い返してみると
子どもの頃から僕はそうだった。
外へ遊びに行くよりも
なけなしのお小遣いで買ったり、
友だちから借りてきた漫画を
黙々と読んでいる時間が
最高に好きだった。
それは大人になった
今も変わらないようだ。

そして僕は、
自分専用の漫画に囲まれた世界を
手に入れた！
どういうことかって？

ふふふ、そう。
僕の住んでいるマンションには
住人専用の漫画喫茶スペースがあるんだ。

次はどのシリーズを読もうかな。
このスペースには、
なんと9000冊もの漫画があるらしい。
どれを読もうか悩んでしまうほどだ。
本当に、贅沢な悩みだ。

小学生の頃はお金が無くて
最新刊が出ると友人から
貸してもらって読んでいた。
漫画を持っている友人は英雄扱いで、
たくさんのクラスメイトが
レンタルの順番待ちをしてたっけ。
だけど順番はなかなかまわってこないし、
やっと自分の番が来たかと思えば
すぐに次の人のところへ渡ってしまう。

当時のことを思い出すと
おかしくて笑けてきた。
今は、好きな時に好きな漫画を
好きなだけ読めるんだ。
少年の頃の夢が、
まさかこんな形で叶うなんて。

毎日大変なことも多いけど
オトナになるのって、案外悪くないな。

僕がここへくると
いつも先にいて、
オススメの漫画を教えてくれる
ここの入居者の彼と知り合った。
漫画の好みが似ているので
ついつい話が弾む。
一人で没頭するのも良いけど
誰かと共通の漫画で語り合い、
感動や興奮を分かち合うのも楽しい。

気づけばもう夕暮れ。
お腹も空いたので
自分の部屋へ帰ってきた。

部屋はワンルームでシンプルな部屋。
僕にはこれくらいの広さがちょうど良いみたい。
部屋がたくさんあっても
持て余しちゃうからね。

晩御飯は
前日から作っておいたカレーを
温め直して食べよう。
そうだ。
漫画友だちの彼も呼んで
一緒に食べることにしよう。
話題はもちろん、
今二人が読み進めている
推理漫画の結末についてだ。
彼の推理はいつも鋭いので感心する。

夕食を食べ終わって
皿洗いを済ませると
そのままお風呂に入るのが僕の習慣だ。
いつもはシャワーしかしないけど
休日だから、
久々に浴槽にお湯をためてみた。
ゆっくり熱いお湯に
浸かるとやっぱり気持ちいいな。

お風呂から上がると
さっき彼と話していた
推理漫画の続きが
どうしても気になってきた。

濡れた髪がまだ
ドライヤーで乾ききってないまま
僕はふたたび漫画スペースへ向かった。
ドアを開けて中に入るやいなや、

「結局、犯人は誰だったと思う？」
ひと足先に読み終えた彼が、
得意げにニヤリと笑って
そう聞いてきた。

今夜も、彼と熱い推理トークを
語り合うことになりそうだな。
僕たちの長い夜はまだ始まったばかりだ。