結婚前夜
この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。
帰ってきたらもう今夜の晩酌が始まってた。
ハンバーグ、スルメ、ケーキ、赤ワインって 組み合わせごっちゃごちゃ。 だけどどれも、みんなの大好物。
卒業しても付かず離れず、3人一緒にいた。
一番最初に結婚するの 誰だろうねって予想して、 いつも予想最下位だった彼女が 結婚することになった。
「彼の仕事の都合で2年後結婚する」 というタイミングで偶然見つけたこの家。
2年の期間限定で貸し出され
しかも外階段で上がる2階は、 3つの個室それぞれに玄関がある作り。
運命だよ!と興奮して 速攻申し込んだフットワークの軽さが 私たちの息が合うところだと思う。
一番広い部屋は、 むかしから「片付けられない」と嘆きがちな 荷物の多い子が住んでる。
それぞれ6畳部屋に住む私たちの荷物は
一階のワンルームにまとめて収納。
「ここのモンブランが絶品なんだよ〜!」 と彼女が冷蔵庫からケーキを出してきた瞬間 ポツリと小雨が降ってきたから、 リビングに避難。
「じゃあついでにお飲み物でも」と 元スナックアルバイターの子が カウンターに立つ。
「よっ、サマになってますね」って 今まで何回言ったかわからない 冷やかしを入れながら カシスオレンジを作ってもらって。
プロジェクターで 最近好きなYoutuberの動画を適当に流す。
木製サッシの窓はちょっとした隙間があるし
冬は寒いし
古さを感じるところは色々あるけど、 初めて見た時、 「好きだわ…」と3人揃えて口にした。
この家の人慣れした 雰囲気の良さを前にしたら そんなデメリットはなんてことない。
2年、と時々しんみりする。
個人商店が並び 昭和にタイムスリップしたような 人情味のあるこの町が、 ことさら切なさを助長し 「夢なんじゃないか」って思う日もある。
なんておセンチになった瞬間に、 酔っ払ったあの子が お風呂で大声でモー娘を歌い始めたから、 笑いながらハモリに駆けつけた。
文・戸田江美
1991年生まれ。デザイナー。おばあちゃんの仕事を継いで荒川区のマンションの大家をしている。落語が好き。@530e
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