この家を最初見に来た時は
妻のお腹も
だいぶ大きくなってきた頃だった。

道を歩いて見えてきたこの家は
昔ながらの平凡なおうちだと思ったけれど
近づいてみたら
玄関がツートンカラーで、
半分ブルーって。と
顔を見合わせて笑った。
「うーん、空と地面のイメージ？」
ちょっと面白そうな気配を感じて
ワクワクしながら扉を開けたんだ。

そこは、良い意味で予想を裏切る空間で
「わっ、明るいねぇ」
「おお、明るいな」
て同時に同じようなこと言って。
見るからにすべすべと
心地良さそうなフローリング。
１階だけど十分に明るくて
風通りの良さそうな空間。

天井も床も天然の色そのままなのが
素朴で、何だかいい。
壁は有孔ボードで、
色んな使い方ができそうだ。
元の壁をぶち抜いて残ったと思われる
一本の柱が印象的で、

あぁ、これはすごくいいな。
その時、その柱の使い道として
すぐに思い浮かんだことがあった。

壁には黒板スペースもある。
忘れっぽい僕らは
今週の予定だとか
買い物メモだとか
連絡事項を書くのに重宝しそう。
その日の献立なんか書いてあっても
嬉しいかも。
縁側も、小さな庭もある。
柱をすべすべと撫でながら
「縁側、憧れだったんだよね」
「うん、私も！」
２階を見る前に、
もうここに住むことを
ほぼ決めていた、
と言っても過言ではない。

庭には、ミカンがぼとぼと落ちていて
なんじゃこりゃ、木にミカンがなるなんて
最高じゃん！と笑った。
この濡れ縁は自分達でDIYして
ウッドデッキにしたいね。

2階には洋室と和室が
ひとつづつ。
子どもが生まれたら

しばらくは和室でみんなで寝て、

大きくなったら洋室を
子ども部屋にしたらいいね、
なんて話してた時に
お腹の中の子がポコポコと動いたんだった。
わんぱくな子になりそうだから
明るい黄色い壁、ぴったりだね、て笑った。
陽当たりも最高。

古い家は水回りが気になるところだし
赤ん坊と暮らすとなると、使いやすさとか
清潔感も重視するわけだけども、
その辺も、全部合格だった。
風呂回りは綺麗にリフォームされてるし、
妻がとくにテンション上がった、このトイレ。

「おしゃれな人の
　インスタで見たのと同じ！」って。
人気の柄のタイルらしい。
レトロなのか、最新なのか、
よくわからないけど、可愛い。

脱衣場もトイレとお揃いの床で、
レトロな雰囲気が残ってるのもいい。
ドアはないけれど、
「布をカーテン代わりにしたらいいよ
赤ちゃんのうちはお風呂場から呼ぶ時
その方が便利だし」って、なるほど。

新しく作られたという洗面スペースは
DIY感が溢れててシンプルだけど、
タオル掛けのアイアンバー、
小棚のサイズ感、
鏡の上のライト、なかなか良い。

台所はごくごくオーソドックス。
実家の台所と配置もつくりもほぼ同じで
なんとなく親しみを覚えたんだ。

あれから3年経って、
もうすぐ3回目の春を迎える。
ベランダからは梅の花が見える。
小さな庭とベランダだけれど、
こうして四季を感じられるのは嬉しい。

2歳半を過ぎた息子は毎日部屋の中を
バタバタと元気に走り回ってる。
壁には色んな作品が貼られて
だいぶ賑やかになったし
壁の穴におもちゃのパーツや粘土が
詰め込まれてることも日常茶飯事。

踏み台をよじ登って
黒板にはいつも何やら謎の文字や絵が
暗号のように描かれていて、
夫婦の連絡事項を書くスペースなどない。
柱につけた小さなシールもかなり増えた。
「パパ今なんセンチー！」と言って
柱にぴったり背中をくっつけて立つのが
習慣みたいになってる。
柱につけた最初のしるしから
最新のしるしまでの長さは32cm。
2年半で32cmも
背が伸びたってすごいなぁ。
まっさらなキャンパスに
少しづつ色をのせていくように
我が家の色に染まってきた部屋。
おしゃれすぎないリノベーションが
僕らには、ちょうどよかった。
駅からは少し距離があるせいか
家賃もやさしめで。

新築にはない、こういう、
ちょっと古さの残ったスペースなんか
すごくあったかくて
好きなんだよなぁ、と
改めて愛着を感じながら
さぁ、散歩でも行こうかー！と
とっ散らかった小さな靴を揃えながら
スニーカーを履いて
黄色いストライダーをひょいと持ち上げた。