初めて読んだ歴史小説は、 司馬遼太郎氏の『燃えよ剣』。 ちょうど放映された大河ドラマ『新選組！』。 同時期に連載されていた新選組が主役の漫画。

トリプルコンボで完全に沼落ちした。

あれから16年。 新選組ファンの聖地に住む日が来ようとは。

京都の壬生にある町家。

壬生といえば、 新選組の屯所があった「八木邸」と「旧前川邸」、 兵法訓練をした「壬生寺」がある町。

我が家からこの３ヶ所へは、 歩いて５分程度で行ける。

週末や観光シーズンは混むけれど、 フリーランスの特権を使って 平日の午前中に行けば 彼らが過ごした空間をゆっくり堪能できる。

何度来ても飽きない。 それだけでも、 ここに住んで正解だと思った。

ここで暮らし始めてから、 朝食は和食になった。

新選組も食べたと言われる 京都の漬物屋「近清」さんで買った たくあんを、白ごはんでいただく。

歴史にそこまで興味のない彼も 「このお漬物と引き合わせてくれた 新選組、ありがとう」 と言うほどに、美味しい。

この家、家具・家電付きだったところも 引越しの決め手になった。

家の雰囲気に合った家具があるのはありがたい。

築60年を越えているけど、 水まわりや家電が新しいから 住みやすい。

陶器の洗面ボウルの色は、 新選組のだんだら羽織色を想起させる。 顔を洗うたびに心踊る。

朝シャンは、坪庭を眺めながら。

お風呂上がりに キッチンに面した濡れ縁に出て 髪を乾かしながら、庭を愛でる。

風に竹がそよぐ。 新選組副長・土方さんの実家にも、 土方さんが植えたと言われる竹がある。

内見の時、興奮してそう言ったけど 彼は「ふーん」と薄い反応だった。

トイレへは、 この濡れ縁から行く仕様。

冬は寒いけど これも風情、と思っている。

リビングは、私の仕事場。

休憩する時は、ソファにごろんと横になる。 気持ちよくて、気づけば陽が沈む時もあるから、 少し考えもの。

この部屋は、玄関土間に面している。

レトロなペンダントライト、 リビングに面した小窓。

ガラスの引き戸、格子から漏れる日差し。 全て気に入っている。

何度見ても惚れ惚れする。

ちょっと用事がある、 と出かけた彼が帰ってきた。

お土産、と渡されたのは、 新選組ゆかりの八木邸の 隣で売られている「屯所餅」。

やったー！お茶にしよう！と言うと、 「コーヒー煎れるから待ってて」と 彼はキッチンへ。

私はそそくさと二階へ。

この階段、 「池田屋の階段落ちが再現できるね！」 と内見の時に興奮したが、 やはり彼は無関心だった。

和室は彼の部屋。 日当たりがよく居心地いいので 2人のおやつスポットにもなっている。

ちゃぶ台と座布団も、この家の付属品。

内見の時、「巨人の星ごっこができるね」と 彼が言っていたけど、 私は素敵なライトに夢中だった。

和室の隣は、寝室。 竹の絵が描いてある方のベッドが、私。

「土方さん側は君ね」と言ってくれたから、 無関心ながらに覚えてくれているみたい。

天井の梁が、この家の歴史を表してる。

こういう長い時間を越えてきたものに触れると、 自分が小さく感じる。

歴史もそう。 過去の壮大なエピソードを知ると、 自分の悩み事が小さく感じられて、 前向きになれる。

だって、現代なら 切腹しないで済むことがほとんどだもん。

寝室に面したベランダには、 今朝干した洗濯物がはためく。

「待たせたな」と彼が コーヒーを持ってきた。

その台詞。 あなたも大概、新選組好きじゃん、 と思ったけど 口に出さずありがと、と受け取った。