小学生の頃から読んでる 漫画の新刊が出たから、 自転車でコンビニに走った。

思春期も、 新卒で右も左もわからず こっそり泣いた日も、 会社を辞めた春の日も、 買いに走ってた気がする。

この漫画だけは、紙で読みたい。

サンダルを適当に脱ぐ。

足の裏に優しく伝わる、 無垢の床の素材感。

縁側に早足で向かう。

ごろんと転がり、 つま先で座布団を引き寄せる。

緑と土の湿った風が、 自転車漕いで少し汗ばんだ肌に優しい。

読み終わって考察サイト見て、 うおっなるほどな、って ひっくり返る。

板張りの天井を見上げながら、 響いた台詞を反芻する。

余韻に浸りながら、 のそのそとリビングへ。

久しぶりに履いたズボンの後ろポケットから くしゃくしゃの1000円札が出てきたから、 ラッキーと呟きながら、 コンビニで買ったイチゴミルクを開ける。

キッチンには 昨日食べたカップ麺が置きっぱなし。

４つくちコンロは今だに使いこなせず、 使い古したお鍋がひとつ。

「せっかく可愛いタイルなんだから きれいにしなよ」って 怒られたこともある。

綺麗好き発言した割には、 棚に乱雑に置かれっぱなしの化粧品。

お風呂のタイルは「若草色みたい」と 言っていた。

そういえば、春先に来る若草色の鳥は メジロだと教えてくれた。

夫婦仲がいい鳥だから、 いつも２羽で飛ぶんだと言っていた。

紫陽花は土の酸性度で色が変わるんだって ドヤ顔で言ってた日もあった。

2畳分の収納には、 捨てられない思い出がびっしり。

怠惰に過ごす週末、 気づけば暗くなる時間帯。

あっという間に過ぎた時間に寂しくなって、 太陽の匂いがする布団に転がる。

「マットレスだけはこだわりたい」って 言われて買ったから、 かなり寝心地がいい。

モルタルの壁に落ちる影が、 庭に向かってグラデーションを作る。 その色を眺める。

昔から、楽しい時間を過ごすほど 後でひとりで この時間を思い出した時を想像して 悲しむ性格だった。

「会いたいなあ」

独り言つと、 ちょうど上の階の人が 帰って来た足音がして、 渦巻く気持ちをふいっと頭の片隅へ。

買った新刊、また読み返して、 考察しながらまどろんだ。