小田急線の電車に乗っていると、
車窓の外に一瞬姿を現す
なめらかなフォルムの白い建築物。

初見では「えっ、いまの何？」と
驚くかもしれません。
じつはこれ、住宅です。

町田方面に地縁のある方や
建築ファンにはおなじみだと思いますが、
あらためてご紹介させてくださいね。
建築家のキャサリン・フィンドレイと
牛田英作が設計し、1993年に竣工した
「トラス ウォール ハウス」。
言わずと知れた名作住宅でございます。

最大の特徴は、曲線を多用した
自由自在なフォルム。
ぐにゃりと曲げた鉄棍で土台を組み
コンクリートで仕上げる
「トラスウォール工法」によるもので、
意外にも鉄筋コンクリートでできた
建物なんです。

フィンドレイと牛田は、
地球に存在する生き物の形の多様さに比べて
人間がつくる直線的な建築物は
なんと単調で味気ないのだろうと
考えたんだとか。

そこで、直線からの脱却を試み
実験的につくったのが、
こちらの住宅というわけなんですね。

もちろん間取り図も曲線づくし。
2フロア構成で、
玄関とLDK、中庭のある1階から
プライベートスペースのある
地下1階へ潜っていくような
つくりになっています。
屋上もあるようですね。

アプローチの階段を
上がった先にあるのが1階の玄関扉。

玄関は、思いのほか
一般的な住宅風でした。
造り付けのシューズボックスや
明かり取りの窓を備えた空間が、
家族や来客を気持ちよく迎え
送り出してくれそうです。

その奥に広がるのが…

中庭に面した開放的なリビング！
ここからは曲線のオンパレードでして、

ゆるいカーブを描く棚やカウンターに、
円形のソファスペース。
うれしいことに、
備付けソファのクッションは
直近に張り替え済みだそうですよ。

まるで洞窟のような、
はたまた粘土彫刻のような、
収納棚やリビングテーブルをはじめ
目に映るほとんどすべてのものが
トラスウォール工法による造り付け。

キッチンのレンジフードまで
造作というのだから驚きます。

続きまして、
やはり造り付けの階段を下りて
洞窟感の増す地下1階へ。

こちらは東側のお部屋。
中央に鎮座するのは備付けのベッド、
その下にエアコンが仕込まれています。
居室はドライエリアに面していて
地下とは思えない明るさ。
左の奥にちらりと見えているのは、

収納スペースでした。
棚まで美しいのだから
感動してしまいますね。

一方、西側のお部屋はこちら。
洞窟感ここに極まれりと言いたくなります。
右側に造り付けられているのは
間取り図では「棚」となっていますが、
これ、もしかして子どもの
就寝スペースにもなるのでは…？

ほら、こんなふうにハシゴもあるし。
だとしたら素敵すぎる。
この空間で子ども時代を
過ごしたい人生でした。

洗面兼脱衣所だって洞窟風。
さすがにお風呂は普通だろうなと思ったら、

がっつり洞窟風、
あるいは粘土彫刻風なのでした。
よく見ると全面に小さなタイルが
あしらわれているようで、すごい。

1階に戻りまして、
リビング外の中庭に出てみれば
一角に階段が。

そろりそろりと上った先には、

ちょっとした庭園のような屋上。

それにしても周囲の風景との
ギャップに驚いてしまいますね。
まるで異次元の世界へ出てきたような、
逆に家の中が異次元の世界だったような。

でも、「自然界に直線は存在しない」って
言いますものね。
曲線に囲まれた暮らしこそが
本来のあり方なのだと信じたい。

現実的な話をすると、給排水設備の修繕や
浄化槽ポンプの修繕、給湯器取り替え、
内外壁塗装などの修繕工事は
数年前に実施されていますが、
エアコンやキッチンまわりなどは
前オーナーの時代から手を入れておらず、
今後修繕が必要になる部分があるのだそう。

建物の躯体と一体になっている造作・
オーダーメイドの設備などは
大幅に修繕をしようとすると
費用がかかるかもしれないとのこと。

それでも、現存する希少な
牛田栄作＋キャサリン・フレンドレイの
建築に住めるまたとない機会。
この生き物のように美しい住宅が、
家を愛し、住みこなしてくれる人に
出会えることを願っています。