手を加えられていない、という贅沢を 存分に味わえる京町家がありました。 室内はほとんど未改装でありながら 屋根瓦の葺替えや建物の構造補強など 安心感をもたらす改修が 2025年に行われたばかりです。

町家らしい佇まいを残しつつ 外壁がブロックだったり 屋根が波板だったり。 その時々の「暮らす工夫」が 重ねられてきたのかな、と想像すると なんとも愛おしくなる外観です。

間取りを見れば 大きな土間から 奥へ奥へと伸びていく形状に 庭といったラインナップ。 「ならでは」だなぁ、と わくわくしてきます。

玄関を開ければ現れる ゆったりとした土間。 自転車を置いたり 植物をたくさん並べて 温室みたいにしたり。 広い土間、というエリアがあるだけで 暮らしに奥行きが生まれる気がしてくる。

さて、さて。 こちらが室内なんですけれども。 お部屋の奥から玄関を向いた視界となります。 白壁のおかげか、板張りの床のおかげか。 どことなく、大正ロマンな雰囲気。

長年使いこまれ、 角が柔らかく削れた床板。 隣には、美しい市松貼り。 そこに刻まれた傷は これまで重ねられてきた暮らしの痕跡。

ここに、新品のキッチンを据え置くのは ちょっと勇気がいるくらい。 どうアップデートしていくかは このお家とじっくり向き合いながら 考えていけばいいと思うんです。

このタイルも、残したいなぁ。 よし、こんな風に タライが似合う佇まいにしよう。 そうやって少しずつ これまで残されてきた宝物と これからの暮らしが調和する地点を 探してゆくのも、楽しみのひとつ。

小ぢんまりとした明るいお部屋は 読書部屋なんてどうかしら。 あえて用途を限定して こだわりぬくのにちょうどいいサイズ。

廊下には 今でいう「ニッチ」のように 壁がくり抜かれていて その意匠性にうっとり。

階段下はオープンにして お部屋を広く見せる手もあるけれど こんなに渋い古建具があるならば キッチン横のストレージとして、このままで。

階段は 昔ながらの急勾配。

上りきって振り返れば 木枠の窓から やさしく光が差し込みます。

畳があげられた2階は ガラリと雰囲気が変わります。

床はどう仕上げましょう。 無垢のフローリング？ それとも古材の足場板？ やっぱり畳が一番かしら。 塗り壁の質感だけは 上手に活かしたいところ。

壁に渡された竹や古風な欄間。 あなたたちはこの先も このお家を見守っていてね。

こちらが通りに面したお部屋。 ツリーハウスのような三角屋根が なんともかわいらしい。 このお家の中でちょっぴり 他とは違う雰囲気を放っています。 屋根の頂点から たらりと照明を下げたなら 特別な夜が過ごせそう。

あらあら、窓の向こうに置かれているのは 将棋盤と座椅子ですか。 このお家で こんな余白時間を過ごしたいと うずうずしてきました。

このままでは住めないけれど 長年このままでいてくれたからこそ 味わい深くて愛おしい。 手間をかける余白があること、 それはこの家の続きを 自分で紡いでいける幸せ。

暮らしの跡が残るこの部屋で あなただけの未来を 始めてみるのはいかがでしょうか。

文・ほしりょうこ 散歩とビールと読書が好きな、元リフォーム屋さん。16年で9回の引越しを経験。もっぱら東京の西側にいます。 @hs_ryk