少しずつ数を減らしつつあるという 京町家ですが、 こんなにもすてきな建物が まだ残っていたとは。 歳月を重ねた建物にしか出せない 上質な魅力をぜひご堪能ください。

表通りからはやや奥まった敷地。 このアプローチの長さに 建物への期待感も高まります。

路地の奥にひっそりと建つ2軒の町家。 まるでここだけ 時が止まっているかのような、 ノスタルジックな佇まいです。

西側の建物が6K、 少し小ぶりな東側の建物が 4Kとなっています。 家の周りには様々な植物が そこかしこに植えられています。

こちらは西側の建物の1階。 図面ではちいさな部屋がいくつも 並んでいましたが、 間仕切りを取り払うとこんなにも 開放的な空間に。 現状では畳は入っていませんし、 ところどころ傷みが気になる部分は あるのですが、

漆喰の壁、艶を帯びた柱、 意匠の美しい建具の数々…、 この雰囲気は新築の建物には 出せないのもまた事実。 こういった部分を活かしながら、 自分好みに改装していくのも ひとつの選択肢かもしれません。

北西の4.5帖のお部屋には違い棚の ある床の間も設えられています。 東向きに窓がとられているので ここで過ごす朝の時間は きっと清々しいのでしょうね。

こちらの階段も元々は襖で和室と 仕切られていたのかもしれませんが、 あらわしになった姿も またチャーミング。

2階は小屋組の架構が ダイナミックな空間。 曲がりのある丸太を使った梁は、 この建物の見どころの ひとつになりそうです。 天井の高さを活かした 床の間の上部の空間は、 収納としても活用できそうですね。

さて、続きましては東側の建物へ。 こちらは1年半ほど前に2階の瓦を 葺き替えたばかりとのこと。 下屋や外壁にも手が入りつつあります。

お風呂の焚き口がある…、 ということは五右衛門風呂が あったりしたのでしょうか？ 今ではなかなかお目にかかれない 設備からもこの建物の歴史を感じます。

玄関から続くスペースは土のまま。 ひょっとするとここにおくどさんが あって、毎日煮炊きが行われていたの かもしれません。

1階の8畳間からは縁側越しに お庭の緑が眺められます。 障子の下部がガラスになっているので、 閉じれば灯籠や低木が切り取られ、 また異なる趣きが感じられそうです。

お庭には立派な松をはじめ、 常緑樹から落葉樹まで 様々な植物が配され、 季節ごとに目を楽しませてくれます。 一つひとつデザインが異なる窓も また愛おしいですね。

2階はこちらも梁をあらわしにした 開放的な空間です。 床の間の隣の書院の部分には 格子の建具があしらわれ、 やわらかな光を落としています。

地下鉄烏丸線「北大路駅」まで 歩いて7分、さらに賀茂川も 徒歩圏内という抜群の立地なので、 ちょっとしたお店を構えながらの 職住一体の暮らしもおすすめです。 日々の暮らしの中で、 古きを愛でつつ、自然を感じるという 本当の意味での贅沢な暮らしが 叶いそうな町家です。

文・佐藤シュン 浜松で設計事務所をやりながら、黒猫と暮らしています。