遮るものがない、
とは、まさに。

目の前に大きく開かれた景色に、
思わず息をのむ。

ここは、港区のほぼ真ん中、
麻布十番駅から徒歩4分。
東京23区を拠点に働く自分にとっては、
非の打ち所がない好立地だ。

外観は飾らずシンプルに。
12階建てのマンションは
見上げると首が少し痛いけど、
空に真っ直ぐ伸びる姿が潔い。

住人の安全は、
オートロックによって守られ、

エントランスの宅配ボックスには
いつもお世話になっている。
日中の不在時には頼りになる存在だ。

部屋があるのは最上階より少し手前の10階。
エレベーターを降りるとすぐに
スマートキー搭載の玄関が現れる。

どこにいても施錠を確認できるから、
心配性の自分とは相性がいいようだ。

初めて間取りを見たときは、
随分と広いリビングだなあと思ったし、
もう1つ、いや頑張ればあと2つくらい
個室を作れたんじゃないのかと
考えたりもしたけれど。

入居して間もなく、
その考えがナンセンスだったと気づく。
遮る壁がないからこそ
この景観を大胆に享受できるのだ。

おはよう東京タワー。

朝、目が覚めたら顔を洗うよりも先に
まずは君に挨拶を。

都心の風景は朝も夜も脈々と、
休まず常に動き続けている。

夜になると東京タワーが規則正しく点滅し、
首都高には光の川が流れ始める。

まるで心臓と血管みたいだ。

カーテンを開ければ、
ほらこの通り。
部屋の隅々まで朝の光が行き渡る。

丸い鏡に映るのは、起き抜けのボサボサ頭。
ここで身なりを整えながら、
ゆっくりと呼吸を深め、
心の中をオフからオンへと切り替える。

洗面室と同じ空間にトイレがあるのは、
なんだか海外ドラマっぽい。

ひとつの空間で
朝の身支度を済ませられるから、
タイパよし、というやつだ。

早起きに成功した日はご褒美に朝風呂を。
ここで全身に朝日を浴びると
しゃっきりと目が覚める。

朝食の定番は、トーストと卵料理。
窓辺で育てているハーブも添えようか。

「キッチンは一人用と見せかけて
実際は二人並んで料理もできるし、
二人分の料理も作れるね」

そう明るい声で言ったのは、
気まぐれに泊まりにくる恋人だ。

料理好きの恋人は、
シンクの上の小さな棚に
持参したスパイスやカトラリーを
所狭しと勝手に並べる。

水回りはシンプルに使いたい派の自分と、
意見が割れるところだけど。
まあそれもいいかなと思い始めていたり。

背面のパントリーは
ストック品や食器類の保管場所。

たしかに、
自分だけで使うには
少々贅沢なキッチンだ。

もう少しのんびりと朝を過ごしたいけれど、
平日は通勤ラッシュに巻き込まれないよう
早めに家を出なくては。

スーツもカバンも時計も、
必要なものはすべてこの
ウォークインクローゼットに。

慌ただしい朝、
照明や家電の消し忘れが減ったのは、
間違いなくこれのおかげ。

スマホで照明や家電を操作できる
“スマートホーム”は、
今や自分にとってなくてはならない
生活必需機能となった。

「時計とか、定期入れとか、
なくさないようにここに置いてみたら」
というのも恋人の提案で、

自分としては、
ここには絵を飾ったり観葉植物を置いて
おしゃれな飾り棚にしたいんだけど……。

実用性をとるか
意匠性をとるか

この件についてはまだ協議中なのである。

それでは、出発。

今日も、都会で奮闘してくる自分を、
空から見守っていてください。

首都高に光の川が流れる頃に、
またここへ帰ってくるよ。

行ってきます東京タワー。