京都の梅の名所の一つとしても知られ、
地元では「天神さん」と呼ばれて
親しまれている北野天満宮。

そのすぐ東を通る御前通と

上七軒歌舞練場への通路に面した路地。
右手にチラリとのぞく「パーマ」の看板、
見えますか？

そちらが今回ご紹介する建物です。
静かに佇む、タイル張りの元美容院と
隣合う厨子二階（つしにかい）の京町家。

路地へ入るとグッと生活感が濃くなって
つっかけ履いて前掛けしたおばあちゃんが
歩いてきそうな気配。

まずは美容院の方からお邪魔しましょうか。

一歩足を踏み入れると
割と綺麗な状態のまま残された室内は
焦げ茶色の床や棚のせいか、
どこか品があります。

クラシカルな縁取りが施された鏡は
そのまま手鏡にしたくなるような形。

ふたつ並んで、なんて愛らしい！
シャンプーやパーマ液のにおい、
シャキシャキ髪を切る鋏の音、
パーマを当ててもらう女の人、
賑やかなおしゃべり…
かつてここで繰り広げられていた
風景が目に浮かぶようです。

店から続くドアをひとつ隔てた先は
家族の空間だったのでしょうか、
洋間がひとつ、奥にキッチンが続きます。

パーケットフロアの床、
板張りの壁に、水色の有孔ボード、
あそこにおたまやフライ返しや輪ゴムを
掛けていたよね…！
おばあちゃんの台所を彷彿とさせる昭和感に
思わず胸が熱くなります。

二階は、和室が三室並びます。
それほどの傷みも見られず、
どこか凛とした空気が漂います。
それぞれ独立した部屋にしても、
階段から繋がるこの真ん中をホールにし
端の二部屋を独立させても、

はたまた仕切りを取り払って
広いワンルームに、
というのもアリかもしれません。

美容院にくっついて並ぶ、
厨子二階の京町家の方へ。
「厨子二階」とは、
江戸〜明治後期に建てられた古い様式で、
二階の天井が低めにつくられています。
昔ながらの間取り、建具がそのまま残り
古さはありつつも、温かみが感じられます。

急な木製階段も、ガラスの仕切り戸も、
デザインとして本当に美しいなと思います。

昔の職人さん達の技やセンスを
褒め称えずにはいられない。
既に畳は剥がされていて

台所部分の床も土壁も傷みがあるので
この辺りは改修が必要かと思いますが
古い柱や天窓など残しつつ
リノベーションしたら
かなり雰囲気のある部屋に
生まれ変わるでしょうね。

二階もまた然り。
所々、手を加えられた跡がありますが
ほぼ原型を留めたままの空間。

路地に面した窓が大きく
彩光がたっぷりなのも
強みだなと思います。

歩いて二分程の所には
石畳の通りに老舗の和菓子店やお茶屋さん、
カフェや食事処が並ぶ上七軒があります。
京都らしい風情と情緒が感じられる街並みは
ちょっと煮詰まった時なんか、
フラリと歩くだけで気持ちが整いそう。

すぐそばの北野天満宮では毎月25日に
骨董や古道具などの露天が並ぶ
「天神市」が開催され多くの人で賑わいます。

ゆとりや美意識が感じられる
古き良き日本の風景の中、

次の住み手を静かに待つ、
古い美容院と京町家。

再建築は不可ですが
自由にリノベーションすることが可能です。
町家側をカフェや雑貨屋にしてみたり、

美容院側をギャラリーや住居など
それぞれ異なる風情の二軒を
どう使うか考えるのも楽しいですね。
贅沢な立地にあり歴史を重ねてきた
このユニークな物件、
ビビッとくる出会いがありますように。