長年丁寧に住み継がれていたのだな、 というのが一目でわかる佇まいの 京町家です。

タイムスリップしたかのような レトロな空気感が漂う通り。

その中の1軒が 今回紹介するお家。 ここにこれから未来を紡いでいける、 というのは なんだか不思議な気分です。

現状は未改装ですが 貴重な昔のディテールを 上手に残しながら 暮らしに合わせて 使いやすくアップデートできたなら きっとこれからも 長いお付き合いができるはず。

まぁまずは この美しい京町家を じっくり見てみましょう。 ガラスの引き戸の玄関は なんとかその形状だけでも 引き継ぎたいな。 ガラガラと戸を開けた時に お向かいさんの タイルの壁やすだれが 徐々に現われるワクワク感を いつまでも感じていたいから。

縦に長い土間も ぜひともそのままに。 京都の町には 自転車で散策するのに ぴったりの場所がたくさん。 愛車の格納場所として 活躍してくれますよ。

それからね 玄関土間からすぐ、通りに面した 「店の間（みせのま）」と呼ばれる和室も 京町家ならでは。 内装はお好みに合わせて 手を加えつつ この空間そのものは お家の顔として そこに居続けてほしい気がします。

型板ガラスも 今はなかなか手に入らない ディテールの一つです。 こうして整然と 格子が並ぶ様を見ていると 気持ちまで整っていくような。

階段をあがって 2階も見てみましょう。

2階には和室が2間。

6畳のお部屋は 壁に寄せた文机なんかが よく似合いそう。 文机に向かって作業をして 気分転換に窓を開けて お向かいさんの室外機が 動き出したのを見て 季節を感じたりするのかな。

８畳の和室には 立派な床の間が。 和室を和室たらしめる要素は お部屋の気品を ぐっと上げてくれる 心強い存在です。

そしてこのお家、 ご近所にとびっきりのお楽しみが。 小径を抜けてゆくと

徒歩約2分の場所に 船岡温泉があるのです。

船岡温泉は大正時代に建てられた 有名な銭湯。 色彩豊かなマジョリカタイルや 千本鞍馬口の菊水橋から移築された 石造りの欄干など 独特の趣を持ち 国の登録有形文化にも指定されています。

徒歩2分なら お家のお風呂代わりもできちゃう。 夕暮れ時に家族で連れ立って、とか 夏の日に外で遊んだ後に ひとっ風呂浴びてから帰るか～、とか そんな風に 日常に溶け込んでくれるはず。

さらに周辺には おいしいコーヒーやごはん、 時には音楽のライブを楽しめる 銭湯を改装して作られた カフェ「さらさ西陣」など お散歩で寄りたくなるお店が点在し

船岡山の山頂には 織田信長公を 御祭神として祀っている「建勲神社」が。

ご近所を少しずつ開拓していって 自分がこの街に馴染む日が 楽しみになります。

物件の築年数は不詳ですが 閉鎖謄本に大正12年の登記記録が有るそう。 長い時を刻む中で 家の中に今も残されているもの、 新しくなったもの、それぞれあると思います。 最近では 2011年にスレート屋根のやり替えと 浴室・洗面の入れ替え、 2020年にキッチンとトイレの入れ替えが 行われたそう。

さて、次に住むあなたは どう暮らす？ この家が持つ趣と 船岡温泉がある日常を引き継いで 自分の彩りを 好きな分量だけ 加えてみてください。

文・ほしりょうこ 散歩とビールと読書が好きな、元リフォーム屋さん。10年で8回の引越しを経験。もっぱら東京の西側にいます。 @hs_ryk