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「本と彼女の暮らし」に混ざる

私たちの部屋には いつも音楽が流れている。 彼女がチョイスする曲は おだやかで、ゆるやかで。 時間がゆったり過ぎていく。

モダンなテレビボードには 大きなテレビを置いたけれど、 つけるのは私ひとりのときだけ。 「音楽のほうが好き」と、 彼女が言うから。

彼女との暮らしは まるで凪いだ海のよう。 リビングで音楽を聴き、 本を読み、食事をして、 日付が変わる前には ベッドルームに移動する。 刺激的な外の世界から 切り離されているようで、 それがたまらなく落ち着く。
この部屋を見つけたとき、 「あぁ、きっと気に入る」と すぐに彼女の顔が浮かんだ。 今までも、これからも、 本に囲まれて暮らす彼女。 ここならしっくりくるだろう…と。
リビング収納は すべて彼女ひとりのもの。 扉を開ければたくさんの物語が、 いつでも彼女を迎えてくれる。
あふれてしまった本は 大容量のテレビボードへ。 高い棚は彼女ひとりでは 開け閉めできないから、 たまに「とって」の声がする。
ちなみに廊下の収納にも、 彼女の本たちが眠っている。 いつかまた読まれる日を 焦らずに待ちながら、 今はゆっくりとおやすみ。
本の世界に入り込んで 食べることを忘れるから、 「そろそろご飯だよ」を 1日に3回彼女に言うのが 私の日課になりつつある。
なるべくスムーズに テーブルについてもらえるよう、 献立に頭を悩ませながら 3くちのIHコンロで調理する。 「いいにおい」とするする 彼女が吸い寄せられたら、 バッチリ成功のサイン。
キッチン家電や食器を 収納しているところに 本が差し込まれていたときは、 さすがに「ここはやめよう」と 彼女にそれとなくさとした。
大きな窓からは 光がたっぷり入ってきて、 日中は照明がいらないくらい。 太陽の光で本を読む彼女は、 たまに人形のように見える。 あまりに同じ場所にいるから。
日が暮れて部屋が ぼんやり沈んできたら、 間接照明をそっとつける。 暗くなっていたことに そこではじめて気づく彼女は、 だいたい「もう夜?」と 不思議そうに言う。もう夜だよ。
お風呂が面倒な日は、 「顔だけ洗って寝る」と 彼女は洗面台へ向かう。 「そうしな」と私は返す。
お風呂に入った日は、 彼女はものすごく長湯する。 てっきり長湯が好きなんだと 私は思っていたけれど、 どうやら「出るのが面倒」だそう。
眠るのは好きらしく、 日付が変わる前には 「もう寝よう」と袖を引かれる。
彼女と暮らし始めてから、 体内リズムの調子がいい。 夜は眠り、朝は起きる。 体がグンと軽い気がする。
大量の本を持つ彼女、 服の量はうんと少ない。
私も少ないほうだから、 ふたり分の荷物が 寝室の収納にまるっと 気持ちよくおさまっている。
家事は苦手な彼女だけど、 洗濯をしていると寄ってくる。 柔軟剤の香りが好きらしい。
風にはためく洗濯物に いつの間にか混ざって、 ぼんやりしていることもある。 「いいかおり」とうれしそうな声。
「トレイ洗剤のにおいも 柔軟剤と同じならいいのにね」と 期待を込めて彼女は言う。 そうだね、その未来を待ちましょう。
本を愛でる彼女の視界に、 いつの間にか私もいて。 それは幸運だったと思う。 なにかひとつ違っていたら、 彼女の世界に私はいない。
本と暮らす彼女の生活に するりと混ざっている気分で、 これからも一緒に いさせてもらおうと思う。 たまに本から顔を上げて、 目を合わせてくれたら。 それだけで、私はいいよ。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana

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